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引き際があまりにも鮮やかだった、元祖トヨタの天才タマゴ。
エスティマの登場の20年前に、本物の天才はふ化した。
晴邦、国光。カローラvsサニー
ふとラジオを聞くと、
100Rの一コーナーでカローラーの晴邦がアウトから前に出た、そのまま複合の第2、第3コーナをに入る、ややアウトに膨らんだ晴邦を国光がインから抜きにかかる、そのまま2台並んで逆バンクへ、今度は晴邦が前にでた、
しかし、すぐ国光が逆のインから前に出る、デグナーの入口で今度は晴邦が前に出る、そのままほぼ直角のデグナ−を抜けてトンネルにはいった、ここまでほとんどサイドバイサイド状態だ。
あっ!国光のフロントがやや前だ、併走してヘアピンへ差し掛かる、しかし、これはイン側の晴邦が有利、国光、あきらめて晴邦のテールにぴったりサニーをくっつけた。
ここからの加速は両車ほぼ同じだ、サニーがカローラのスリップに入る、
それをさけて晴邦がクルマを蛇行させる、全く同じコースを国光がなぞる。スプーンカーブに入った、晴邦、国光の順だ。3位の久木留のカローラはこの2台のはるか後方だ。B110sunny1200.jpgさてスプーンを抜けると最高速がでる裏ストレート。
トップ晴邦にテールツーノーズで国光のサニークーペが付いている。
裏ストレートに入るとスリップを抜け出して国光が前に出る!晴邦のカローラがガクンと後退したように見える。
KE.Colora.jpgそのままフルアクセルのまま130Rと250Rを抜けて最高速のままグランドスタンド前、今度は晴邦が負けじと国光のスリップストリームに入る、
サニーのテールに今度はカローラのノーズが食い込んでいるように見える。そのままコントロールラインを過ぎて、両者10周目に突入。
大観衆の前をチューンナップされた1300cc、OHV(!)エンジンの轟音が走リ去る、250km/h近いスピードからフルブレーキングの1コーナーだ。
後ろの晴邦が素早くスリップを抜け出し国光のインに飛び込む。両者、接触しないギリギリで譲る、正にプロフェッショナル、1コーナーに晴邦、国光の順だ、
国光はなんとアウトから晴邦のカローラに並んだ!両車の感覚は10cmもないように見える、いやボンドで接着されたように両車併走状態で70Rを過ぎていく。
観客も大歓声。凄いデッドヒートだ。
スカイラインのGTRでTS-2クラスは無敵状態の日産は、トヨタの牙城TS-1(1300cc)クラスも制覇するためエースの国光と都平をワークスチューンのサニークーペに乗せて全日本鈴鹿自動車レースに挑んできた。
負けじとトヨタも若手のエースの晴邦とベテラン久木留で向い撃つ。
当然ながら、王座を簡単に譲る積もりはない。予選ではより熟成が進んだワークスチューンのカローラクーペと晴邦がコースレコードを記録してポールポジションだ。
スタート1周目を晴邦と久木留が1位.2位でコントロールラインを通過、しかし、2周目のコントロールラインを過ぎると国光サニーが久木留カローラを抜いて、晴邦のテールにピタリと照準を合わせてきた。
並のドライバーなら国光が迫るだけでビビるものだが、そこは強心臓、"浮谷東次郎二世"を自推する晴邦。うれしくてワクワクしていたらしい。
この2周目から決着が付くまでの間、トヨタと日産の両エース、性が同じ高橋のカローラ晴邦、サニー国光の二人は正に抜きつ抜かれつのデッドヒートを展開した。
ストレートのスリップストリームを利用して1コーナーに先に飛び込む、続くS字、逆バンク、ダンロッブリッジで、ある時は晴邦が、
ある時は国光が前に出て、デグナー、ヘアピン、スプーンと続き、裏ストレートから130R、250Rのアクセル全開区間を過ぎて再びグランドスタンド前にやってくる、
そのまま1コーナーでまたも順位が入れ代わるという、目まぐるしいレースだ。
レースは24周のスプリントレース、トラブルがあったり、スピンすればその時点で勝負はついてしまう。

さあ、そう言ってる間に、先頭、晴邦のカローラがグランドスタンド前にやってきた、
ピタッと国光のサニーがカローラのテールを捕らえている、晴邦はストレートを右に左に蛇行して国光のノーズを振り切ろうとするが、
国光は離れない。2台の轟音はあっという間に1コーナーに達する、
計ったようにインに先に飛び込む国光、
今度はアウト側を晴邦のカローラがサニーの横にくっいたまま1.2.3コーナーをぬけてS字コーナーから逆バンクに向かっていく
Rのきついダンロップブリッジを超えるとインとアウトが逆転し、
そのままデグナ−でまた逆になる、
ダンロップンブリッジで前に出た晴邦がそのままデグナ−で国光を被せるようにコーナリングし、トンネルを抜けてヘアピンに向かう、
コース中最低速で回るこのヘアピンで両車は行事良く一列に並ぶ、
それがもどかしいように200Rその先のスプーンへ向けてアクセルを床まで踏んづける、
スプーンを抜ければ最高速がでる裏ストレートだ、
ここまでテールを見てきた国光が満を持したように晴邦の横に並ぶ、
が前に出るには至らない、国光がイン、晴邦がアウトで130Rへ、
スピードに乗ったまま250R、グランドスタンド前だ!
この周は国光はスリップストリームを使えない、
晴邦のカローラが車体半分サニーの前に出たまま、ピット前のストレートを通過、
いよいよ12周目だ!1コーナーで強引に晴邦が国光の前に出る、
若いだけに晴邦は譲らない!
両車フルブレーキングしながら前に出る事をあきらめない。
ぶつかりそうでぶつからない、そのまま、晴邦、国光の順で複合からS字、デグナ−を過ぎていった。

という実におもしろいレース中継が、突然ラジオから流れたのだ。
1972年3月に開催された関西スポーツカークラブ主催の全日本鈴鹿自動車レースの全日本選手権1クラス(1,300cc以下)気温12度の肌寒い中、訪れた3万3000人の観客はラッキーだ。
これほどまで過激でしかも"おもしろいレース"はめったに見られない。
トヨタと日産、カローラとサニー。この言葉だけで対決意識が生まれるのに、それに加えて、国光、晴邦という役者がそろったレースは滅多になかった。
会社を背負うレースは、負けないために戦法を練る。切り札を惜し気もなく投入するのは負けない確率が高い時だけだ。
レースの方は、あと6周を残して、晴邦がスタンド前のストレートを避けてピットロードへカローラクーペを向けた、
観客から「あああ!」という落胆の声が聞こえる、
と、その後ろを国光のサニークーペが同じくピットへ向かっている。観客席の落胆はさらに高まる、まるで測ったように両車共にエンジントラブル。
ピツトに辿り着き、健闘をたたえるピットクルーたち、クルマから降りた両高橋は、ヘルメットを外して、本当に楽しそうな笑顔でがっちり握手。健闘したサニーとカローラをお互いポンとたたいた。
ふと、国光のサニーのフロントスポイラーを見ると、
排気テールの丸型そのままの黒い焼き印が付いていた。
何だろうと首をかしげるピットスタッフは、それが何か分かった時、ピットに驚きの声が上がった。晴邦のカローラの排気管からでる排ガスが国光のフロントスポイラーに刻印をつけたのだ!
それ程まで接近していながら、両車が接触した事は一度もなかった。
接触ぎりぎりまで攻める勇気と決して接触しない神業のようなテクニック。
ベテランの域に達していた国光に比べまだ若い晴邦が、同等に闘ったことは、日産にとってかなり驚きだった。

<文中敬称略で使用させていただきました>


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