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引き際があまりにも鮮やかだった、元祖トヨタの天才タマゴ。
エスティマの登場の 20年前に、本物の天才"ハルク二”はふ化した。

GT-R.今日デビュー

1969年JAFグランプリ当日の朝刊全面広告に発売されたばかりのスカイラインGT-Rがドーンと載っていた。そのタイトルが「GT-R.今日デビュー」。

聞きようによっては日産の勝利宣言ともとれる。かってのR380に搭載された純レーシングエンジンをデチューンしたS20型はDOHC4バルブ、ツインンキャブレター、6気筒エンジン。レース仕様は推定馬力が280馬力、このクラスでは他に類を見ない高性能エンジンだ。それが、広告の主役、スカイラインGT-Rだ。

対するトヨタはコロナ・ハードトップに2000GT譲りのDOHC2バルブ、ツインンキャブレターの4気筒エンジンを搭載したトヨタ1600GT。レース仕様の馬力は推定200馬力。

hakoskGTR,devue.jpgパワーの差は絶対的で、公式予選前の練習走行で富士のフルコースをGT-Rは2分13秒台で回っていた。トヨタは2分15秒台。プラクティスで2分14秒91のタイムが出て、GT-R勢に続いて4番目のポジションを得たのが"高橋晴邦"だった。
クルマの性能から考えたらトヨタに勝ち目はゼロだった。当日朝の全面広告も、日産にとっては賭けでなく、確信のある広報活動だった。
好漢"晴邦"は、朝刊を見てニヤリと笑った。

今回のJAFグランプリのTSレースは、プロドライバー(ワークスドライバー)の参加を規制しアマチュアドライバーの戦いの場とした。まだ晴邦は、トヨタワークスと契約をする予定の、学生ドライバーだった。北野、黒沢、国光、都平といった日産ワークスの面々は参戦できない。
GTRDEvue2.jpg 晴邦は、予選で日産のドライバー達がカチカチにい緊張しているのがわかった。晴邦も同じアマチュアなのに、彼らの挙動を見下ろしている。この度胸の良さが晴邦だ。トヨタのピットも、負けて元々という気楽さと、勝負の世界はゲタを履くまでわからない。の二つの思いがあった。
朝刊の広告は、日産のアマチュアドライバーに"よりプレッシャーを与える"という逆効果を産んでいた。


決勝レースでは、緊張するGT-Rを尻目にトヨタ1600GTが好スタートを切った。機先を制するつもりでトヨタは1速のギア比を落としてスタートダッシュに勝負を賭けてきた。
前半、トヨタ勢は、晴邦を先頭に上位5台のトップグループを形成して、GT-Rをドンドン引き離した。6周目、ストレート1本分、GT-Rを引き離した。
「こりゃ、ひょっとすると優勝だ」
と晴邦は思った。ピットも同じだ。280馬力のパワーは後輪を空転させるだけでGT-R勢はトヨタに追いつけそうもなかった。
ところが、、中盤になり最後尾を走ってる2台のGT-Rがピットに呼び戻された。トラブルか、と観客が騒ぐ。すぐに、2台ともピットアウトしていった。その直ぐあとを、5台のトヨタが通過する、3台のGT-Rも後を追う。
次の周、先頭トヨタ勢の頭に先ほどの2台のGT-Rが陣取り、遅れた3台のGT-Rが追いつく様にスタンド前を通過していった。
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ピットに戻したGT-Rはトヨタ勢の前を塞いで、後ろのGT-Rに追い付かせる鉄砲玉だったのだ。
なりふり構っていられない日産だ。朝刊の広告はこんな効果まで産んだ。
みるみるGT-Rに追い付かれるトヨタ勢。エンジンパワーの差が高速コースの富士では顕著にあらわれる。
なりふり構わないのはトヨタも同じだ。ブロックにはブロックを、歯には歯を。
アマチュアのみのレースのはずが、プロも顔負けのブロック合戦だ。
図太い晴邦は、ここでもプロ並み?のケンカ走法で首位を譲らない。2位までをGT-Rに奪われながら、虎の子の1位は決して譲らず、30周をトップで走り切った。表彰台の頂点に立ち、スタンドを見ると7万人の観客が、すごく興奮してるのがわかった。同時に大きな拍手がサーキット中に沸き起こった。


しかし、レース終了後、晴邦の最終ラップの走行が走路妨害であるとの判断が下され、一周減算のペナルティをとられ、3位にされてしまった。
朝刊の広告効果の極めつけで、負けたら自分の首が危ない日産の監督が強硬にクレームをつけ、GT-Rを1位にしたのだ。
表彰式後に、3位降格を聞いた晴邦は、悔しさはそれ程なかった。7万人の観客が送ってくれた拍手が事実であり、抜かれまいと秘術を尽くして、30周をトップでゴールした今日のレースは自分なりに大満足だった。
怒りをまき散らすトヨタ関係者を観ながら、晴邦は冷静だった。
トヨタの天才"高橋晴邦"が正式にワークス契約をしたのは、それから半年後、大学を卒業した後だった。
<文中敬称略で使用させていただきました>


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