tsuribaka.logo.jpg

第弐章 狂乱の宴




tsu.tabou.jpgその夜は、簡単な歓迎会をホテルの中華ですませ、2次会に、日本人のたまり場の日本レストラン 多忙亭にくり出した。
多忙亭のマスターは文字どおり多忙で、現地人妻を持ちながら、日本人妻とレストランを運営し、その傍らでカジノにも足繁く通い、土日はお客さんとマージャン、同じ土日の昼間は賭けゴルフ。さらには、カンボジア人とジャズバンドも結成してイベントの時はステージもこなすという、カンボジア在住日本人の中では世界一忙しい男である。
ここの常連にライバル会社のカンボジア駐在員、茶目がいる。
カンボジアは、日本と全然違うことを二人に知って欲しくて中畑はこの店を選んだ。

tsu.cyame.jpg5時から男、浜崎は昼間の軽薄さに拍車がかかり、俄然、元気だ。明日が土曜日のようにはしゃぎまくっていた。明日は水曜日だ。ちゅうに。
佐々木と中畑はカウンターの隅で、ボソボソと仕事の話をしている。しかし、浜崎に煽られてか、酒は大いに進んだため、顔と目を真っ赤にして二人は会話にならない会話をボソボソと続けていた。
突然、二人の頭へドボドボドボとビールが注がれた。これを期に、狂乱の宴が始った。
「いやあ、カンボジアはハッピーですなぁ。」
調子モノの浜崎がセンを抜いたビールを、佐々木の薄くなった頭にバシャバシャかけている。
「ハマちゃん、それはいけんでちゅ〜よ〜ん。」
別の声が、隣の中畑の頭に同じくビールをかけてきた。異様にテンションが高い。
中畑にビールをかけているのは、なんと、ライバル社の茶目だ。
「サーさん、何をむずかちい顔ちて飲んでるの〜。」
タガの外れた浜崎は上司を友だち扱いで、残りのビールを全部かけた。
店のマスターと奥さん、それに2人いたお客は、驚くしか
なかった。 「ハマちゅわん、それあんたのじょうち(上司)でちょ。それはいけんことでちゅよ〜〜ん。」
茶目が残りのビールを佐々木に全部かけた。

この男、初対面のスズキ建設のの本社部長にとんでもないことする。
中畑は、しまった!!茶目の酒癖の悪さは評判だったことを思い出した。
プノンペンにいる日本人なら、必ず一度は被害に合うと言われる茶目の暴挙に、 佐々木部長は来たその日に出くわしたワケだ。
普通、酒癖が悪くても、赤の他人にいきなり、頭からビールはかけない。
まさに"世界一、いや銀河系一酒癖の悪い"のがこの茶目烈朗だ。

「あれ、ぶちょう、ビールをかけたら髪の毛が急にふえちゃったよ!」
浜崎は、"ひじき"を佐々木の頭に載っけて手でペタペタ均していた。
ワ、ハハハハ!! マスターもその奥さんも、他の客もそれまで、ハラハラして観ていたが、
そこで我慢できずに吹き出した、店内が大爆笑だ!!

tsu.dokugiri1.jpgつられて、笑うしかない佐々木と中畑、
しかし、いつの間に浜崎と茶目は意気投合したのだろう?
ビールでビチョビチョになりながら笑う中畑は、まだ冷静だった。
酔いもあって怒りを忘れた佐々木は、ゼネコンの宴会部長も自認しているだけに、その場の雰囲気を読むのも早い。
「はまちゅあん、ぼくちゃんが人間殺虫剤ってこと知らないでちょ〜」
「うん?」佐々木の意外な反撃にキョトンとしてる浜崎に向かって佐々木は
「ブワーッ!!」と黄色い霧を口から噴霧した。
店の全員がびっくり仰天した。単にビールを口に含んで、吐き出しただけだが、なかなかの迫力だ
「グエー!!」顔から浴びた浜崎は大袈裟に床へ倒れ込んだ。
一緒にカウンターにあったグラスや食べかけのつまみが飛び散り、店内は大騒動だ。
「見たか、わしは悪を倒すフマキラー佐々木だァ!!」
勝ち誇る佐々木に店内は笑いと拍手が起きた。その顔に"ひじき"がキラリと光った。

「おまえの耳は象さんの耳だ!ブワーッ!!」
初対面の茶目の首をヘッドロックの要領で捕まえた佐々木は、
茶目の左耳にダイレクトにビール霧を噴霧した。
「グエー!!」茶目も耳を押さえて床へ倒れ込んだ。更にグラスや皿の割れる音が響き、店内は泥沼と化す。マスターとマスターの奥さんは不機嫌になってきた。
そんな事は委細気にせずフマキラー佐々木は中畑の首を正面から捕まえると、目を細めて猫なで声で
「ナカちゃん、愛してるー。」
ほとんど気狂いだこの連中は!
佐々木は再び「ブワーッ!!」と黄色いビール霧を中畑に噴霧した。
ところが、佐々木と5cmと離れていない中畑は口を開けてまるまるこの霧を受け留めた。汚ねぇー!
「さーちゆあん、ぼぶもあいじゅでる」
tsudokugiri2.jpg口のナカに霧を入れたまま喋る中畑はうまく喋れない、
「ブチャーツ!!」
そのまま、今度は中畑が、佐々木に、ビールとと混ざった唾液霧を噴霧した。
佐々木は店をこれ以上、壊さないように遠慮してカウンターからずり落ちた。それでも、爪楊枝ケースがとび、醤油とソースの瓶が床に落ちた。
テーブルも床もビチャビチャで汚いことこの上ない。
「もういい加減にしてよ!店が壊れちゃうじゃないの!!」マスターの奥さんが本気で怒り出した。

「スズ建の勝ちぃ!!」
これ以上はヤバいと感じたハマちゃんが締めに入った。
負けを宣告された茶目は、顔を拭きながら、勝者、中畑の手を取り、くるりとマスターの奥さんの方を向いて、その手を高々と上げた。
「明日は土曜日だ、楽しくやろうぜ!!」
「ばか!明日は水曜日だ。」
マスターの奥さんが冷たく言い放った。

BACK_ICN.GIF 釣りバカ日誌・カンボジア編1へNEXT_ICN.GIF 釣りバカ日誌・カンボジア編3へ(制作中)

thomTOM, およびtTt_factoryは商標および登録商標です。
E-mail:thom7gashima@yahoo.co.jp © 2005 tTt All rights reserved ™