GT-R.今日デビュー![]() 聞きようによっては日産の勝利宣言ともとれる。かってのR380に搭載された純レーシングエンジンをデチューンしたS20型はDOHC4バルブ、ツインンキャブレター、6気筒エンジン。レース仕様は推定馬力が280馬力、このクラスでは他に類を見ない高性能エンジンだ。それが、広告の主役、スカイラインGT-Rだ。 ![]() 対するトヨタはコロナ・ハードトップに2000GT譲りのDOHC2バルブ、ツインンキャブレターの4気筒エンジンを搭載したトヨタ1600GT。レース仕様の馬力は推定200馬力。 ![]() クルマの性能から考えたらトヨタに勝ち目はゼロだった。当日朝の全面広告も、日産にとっては賭けでなく、確信のある広報活動だった。 好漢"晴邦"は、朝刊を見てニヤリと笑った。 今回のJAFグランプリのTSレースは、プロドライバー(ワークスドライバー)の参加を規制しアマチュアドライバーの戦いの場とした。まだ晴邦は、トヨタワークスと契約をする予定の、学生ドライバーだった。北野、黒沢、国光、都平といった日産ワークスの面々は参戦できない。 ![]() 朝刊の広告は、日産のアマチュアドライバーに"よりプレッシャーを与える"という逆効果を産んでいた。 ![]() 決勝レースでは、緊張するGT-Rを尻目にトヨタ1600GTが好スタートを切った。機先を制するつもりでトヨタは1速のギア比を落としてスタートダッシュに勝負を賭けてきた。 前半、トヨタ勢は、晴邦を先頭に上位5台のトップグループを形成して、GT-Rをドンドン引き離した。6周目、ストレート1本分、GT-Rを引き離した。 「こりゃ、ひょっとすると優勝だ」 と晴邦は思った。ピットも同じだ。280馬力のパワーは後輪を空転させるだけでGT-R勢はトヨタに追いつけそうもなかった。 ところが、、中盤になり最後尾を走ってる2台のGT-Rがピットに呼び戻された。トラブルか、と観客が騒ぐ。すぐに、2台ともピットアウトしていった。その直ぐあとを、5台のトヨタが通過する、3台のGT-Rも後を追う。 次の周、先頭トヨタ勢の頭に先ほどの2台のGT-Rが陣取り、遅れた3台のGT-Rが追いつく様にスタンド前を通過していった。 ![]() ピットに戻したGT-Rはトヨタ勢の前を塞いで、後ろのGT-Rに追い付かせる鉄砲玉だったのだ。 なりふり構っていられない日産だ。朝刊の広告はこんな効果まで産んだ。 みるみるGT-Rに追い付かれるトヨタ勢。エンジンパワーの差が高速コースの富士では顕著にあらわれる。 なりふり構わないのはトヨタも同じだ。ブロックにはブロックを、歯には歯を。 アマチュアのみのレースのはずが、プロも顔負けのブロック合戦だ。 図太い晴邦は、ここでもプロ並み?のケンカ走法で首位を譲らない。2位までをGT-Rに奪われながら、虎の子の1位は決して譲らず、30周をトップで走り切った。表彰台の頂点に立ち、スタンドを見ると7万人の観客が、すごく興奮してるのがわかった。同時に大きな拍手がサーキット中に沸き起こった。 しかし、レース終了後、晴邦の最終ラップの走行が走路妨害であるとの判断が下され、一周減算のペナルティをとられ、3位にされてしまった。 朝刊の広告効果の極めつけで、負けたら自分の首が危ない日産の監督が強硬にクレームをつけ、GT-Rを1位にしたのだ。 表彰式後に、3位降格を聞いた晴邦は、悔しさはそれ程なかった。7万人の観客が送ってくれた拍手が事実であり、抜かれまいと秘術を尽くして、30周をトップでゴールした今日のレースは自分なりに大満足だった。 怒りをまき散らすトヨタ関係者を観ながら、晴邦は冷静だった。 トヨタの天才"高橋晴邦"が正式にワークス契約をしたのは、それから半年後、大学を卒業した後だった。 <文中敬称略で使用させていただきました>
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