三文オペラが美しく哀しい、シトロエンSM トレッドがフロントより「200mm」も狭いリア 悪女の心臓用にマセラティが開発したのがＶ６ツインカムエンジンだった。手持ちのV8は心臓肥大を起こすからと、ドクターはV6に縮小した。フロントヘビーのFFには最適のエンジニアリングかもしれない。 しかし、SＭの魅力はスタイルだ。前衛的で軟体動物系のシルエットが持ち味のシトロエンの中で少し獰猛性を加味したのがこの”SＭ”だ。 俗に宇宙人の乗り物と評された”DS”に比べ、4つ足の生物に近づいた”SM”だが、他のクルマに比べるとまだまだ”宇宙船”だ。女性にしてみると、イケメンを言葉で激しく罵倒し、脚で臀部を回し蹴りして、 悦ぶ典型的な”S嬢”ではないだろうか。従って、助手席にほおを押さえながら、泣きそな顔して座らされてる”M男”がお似合いだ。 フロントに対してリアのトレッドを20mmも縮小しているのも、"空力オタク＝シトロエン”らしい。当時のＤＳ、後のＣＸにも用いられているこの設計は、乱流を整える効果は高い。耐久レース用のスポーツカーが尻つぼみロングテール仕様にするのと同じ考えだ。リアタイヤは当然のようにボデイに沿ったカバーで隠される。空気を最初に受ける フロントは、透明のアクリルでフルカバーし、抵抗を減らすより、素早く後ろへ流す事に重点を置いている。６個の角ライトとナンバープレートをその中に収めて、エンジンへの冷却風はバンパー下から取り入れた。ボデイ下へ流れ込む空気は吸収方向へ、それ以外を後ろに早く流す整流方向へコントロールするためにデザインされている。そう考えると、シトロエンは芸術家といううより"技術オタク"だったのだ日本が東京オリンピックだ、大阪万博だと。騒いでいる時代にだ。 そうは言っても、アメリカではシールドビームが義務付けられていたため普通の丸形４灯式に変更、日本ではナンバーをプラスチックで覆うのも禁止だった。さらにステアリング連動で左右に可動するフロントライトも規制で禁止、電気部品は固定式に変更せざるを得ない時代だった。つまり「凝り過ぎ」シトロエンは、世界的にも異端児だったのだ。気分屋的なイメージが強いこのメーカー、実はとんでもなく、"技術オタク"だったという証左だ。 その後、200年を迎える頃、シトロエンはプジョーと合併しPSAグループとなった。現代はクルマのアンダーボデイを共用して上に載っける部分をデザインするのがメーカーの仕事になっていた。プジョーと共通のフロアを使うことで、多岐にわたるクルマが製造できる。そのおかげでシトロエンも下から、C１（1000cc〜）、C２（1400cc〜）、C３（1400cc〜1600cc）、C４（1600cc〜2000cc）、C５（2000cc〜V6・3000cc）といわゆるフルバリエーションメーカーに進化した。 かっての孤高な変態は、めっきり影を潜め、そこには「堅苦しいけど、シトロエンを潰すわけにはいかん」とロングバカンスを返上して働いてる首脳陣の顔が浮かぶ。合併後のシトロエンは卑屈になったようにも見えた。一本ステーでハンドルグリップを支える例のステアリングが消えた事にそれを感じた。 性悪オンナが幼稚園の保母さんにでもなったみたいに『らしくないクルマ』がシトロエンの名で発売されることになった。 ところが、最近のシトロエン、やっぱ”わたしゃァお水よ。”とプジョーグループのいい点は享受しながら、持って生まれたエンターテイメント性を包み隠さず表現するようになった。しょせん。堅気は似合わないんだ。この会社。 ルーフが外せる、さらに左右のピラーも取ってガレージに置いておけばカブリオレ。後ろの下ヒンジのハッチを開ければピックアップになる。 C３プルニエルはそういう、遊びクルマとして登場した。実際に実行する人は何人いるか知らないが、敢えて販売するところに、「なによ、あんた。文句アル？と」シトロエンだ。 フロントサイドに三角窓、そして、リアサイドにも三角窓。横から見るとセンターピラーを中心にシンメトリーウインドウを持つ”クサラピカソ”。 C3とC4の間に位置して発売された。名前にスペインのピカソを入れたところに、ちいママからママになったシトロエンを感じさせる。 でも、C4も"変わったクルマ"にとどめている。 クーペながら4人が楽に乗れてスタイリッシュ？といううが、写真で観る限りまあまあかな、アクがないから。 もともと、シトロエンはスタイルがいいクルマは作らない会社だから問題ない。 実は、脳みそに鼻水しか入れてないようなチャラチャラ女は嫌いなのよね。コクのあるシトロエン嬢は常々そう云ってる。 おっ、このミラーウインカー、ドイツ嫌い（ミラーウインカーはベンツのアイデアだから）を白状してる。なんせ、「アホウドリが東（ドイツの方向）から来る。」だもんね、本場の「仏魂」は！ ←BackSMはシトロエン最後の悪女